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タイトル: 琵琶湖をめぐる古墳と古墳群の考古学的研究
著者: 用田, 政晴
発行日: 2007/03/23
抄録: 湖上交通史を背景にしながら古墳と古墳群を中心とする考古学的事象を振り返ると、琵琶湖水系は弥生時代以降、野洲川下流域を中心として独自の展開を遂げる。すでに弥生時代末には前方後方形周溝墓を集中して築き、古墳時代には伝世鏡を持たず当初から円墳しか築かなかった首長に対し、畿内中枢は三角縁神獣鏡を配布するなどこの地域を重視していた。 古墳の墳形と規模およびその内容からみた歴史は、安土瓢箪山古墳をはじめとする3基の前期大形前方後円墳が、拠点的な円墳群を築いた野洲川下流域を遠巻きにしながら湖を意識して船津に配置され、雪野山古墳など3基の中形前方後円墳もこれらの意図的な配置を補う。また前期前半の小形前方後円墳2基は、湖の南北に築かれるなど、古墳時代前期を境に琵琶湖の価値が転換する。そして旧野洲川の左岸と右岸は、古墳時代の中ごろから別の道を歩んだ。古墳時代を通じて最後まで自立性あるいは固有性を貫いたのは、野洲川左岸、旧栗太郡の首長と集団であり、琵琶湖水系の中では水路と陸路が集中し、その結節点だった旧野洲川河口部をはじめとする船津を通じて湖の管理を行ったのも、湖に直接面したこの地域の首長であった。 このことは、織田信長が安土瓢箪山古墳と連なる隣山に築いた安土城を中心に、長浜城・大溝城・坂本城を結んで湖管理の城郭網を作り上げ、一方で旧野洲川河口部の芦浦観音寺の住職が代々船奉行を務めたことと二重写しになる。このように琵琶湖水系を実質的に掌握する上での歴史的中心地は、琵琶湖と水系最大の河川・野洲川の交差によって醸成されたものであり、東国・北国と畿内を結ぶ陸路と水路がこの地域に集まり交わることとも無関係ではない。琵琶湖水系における古墳時代首長は、旧野洲川河口部を中心とする湖・河川と陸上を利用した交通路の掌握に努め、水資源の利用と耕地開発、後には塩の流通・鉄の生産などにも関わった。畿内中枢による東国監視体制に組み込まれた非前方後円墳首長は、琵琶湖・日本海ルートを通じ朝鮮半島・大陸をも視野に入れた、いわば近江の関所あるいは畿内境界論の担い手であることを想起させる。またそのことは、後の三関の設置にも通じるものであった。 弥生時代にはじまり古墳で顕著に見える地域性は、基本的には湖を中心に放射状に伸びる河川をその境とする旧郡単位で捉えることが可能であり、それが近江の古墳時代社会の基本単位となる。自己完結的な盆地地形を前提にし、伝世鏡や埴輪を持つことが少なく、粘土槨による複数埋葬を指向した前期古墳、典型的な中期の前方後円墳を築かないことは旧国単位での特徴であり、これを旧郡単位の固有性と区別して地域全体の完結性と呼ぶ。 一方で、琵琶湖水系の諸地域は、琵琶湖の対岸との接触よりも峠を越えた隣国との交流 が盛んであった。琵琶湖は生活と生業の場であり、人と物が行き交った街道ではあったが、外洋と同様のウミでもあり、琵琶湖と流れ込む川は集団領域の境界でもあった。 こうした琵琶湖水系における旧郡単位の固有性と旧国全体の完結性、そして七つの隣国への開放性という歴史的性格は、列島の中央に位置する琵琶湖水系地域という求心的な環境と、川をはさんだ集団間の、土地と水をめぐる諸矛盾顕在化の流れの中にある弥生時代から古墳時代にかけてという背景の中で醸成されたものである。 本書では、琵琶湖管理をめぐる古墳時代の琵琶湖水系は、野洲川下流域の首長層を軸にしており、特にその左岸の旧栗太郡の首長が在地集団の核となって、後には琵琶湖の船津を通じた実質的な管理者となって歴史的に展開したことを述べる。その上で、琵琶湖を中心にし、湖と川によって形成された求心的な地域の固有性と地域全体の完結性および列島の中央における開放性という三層に重なり合った、弥生時代にはじまり古墳時代に本格化する近江の歴史的環境を指摘する。この固有性は地域からの史観に基づくものであり、完結性と開放性は列島単位で見た歴史的特質であった。
内容記述: 人文論第2号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201o005
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/629
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