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Title: 森林からの水質汚濁物質の流出と琵琶湖の沈水植物群落の水質改善機能の評価
Authors: 浜端, 悦治
Issue Date: 27-Jul-2006
Abstract: 1) 本研究では琵琶湖の保全において,植物群落の視点から最も重要と考えられる集水域における森林生態系と湖沼における沈水植物群落という2つの植物群落を取り上げた.森林群落については渓流として流れ出す汚濁負荷量の推定精度を向上させるとともに,森林伐採が渓流水質に及ぼす影響を野外実験によって明らかにすることを試みた.さらに汚濁負荷を受け止める琵琶湖においては,特に南湖を研究対象とし,ほぼ壊滅状態にあった沈水植物群落の回復状況を把握するとともに,その回復が湖沼水質に及ぼす影響を調査した.これらの研究から,森林の伐採や沈水植物群落の回復といった群落の劇的な変化が,湖沼環境に重大な影響を及ぼす可能性のあることを明らかにした. 2) 森林からの汚濁負荷量の原単位の精度を高めるために,琵琶湖集水域で基岩の異なる2地域の森林流出水で,N, Pの栄養塩などの観測を行った.調査流域は湖南中部の花崗岩地の3小流域,湖西北部の古生層の地域の2小流域であった.渓流水を毎週調査した結果,花崗岩地の油日-N,油日-S,妙光寺での全窒素(TN)の年間平均濃度は0.408,0.589,0.349 mg/lであり,全リン(TP)の年間平均濃度はそれぞれ0.0074,0.0046,0.0096 mg/lであった.また年間の流出量の平均値は油日-N,油日-S,妙光寺のそれぞれで,TNは,5.85,3.99,8.37 kg/ha・年,TPでは0.131,0.044,0.280kg/ha・年であった. TN, TPの浄化率を求めると,油日-N, 油日-S,妙光寺それぞれについて,TN: 55,76,36 %,TP: 77,95,59 %となった.古生層を母岩とする朽木-R流域,朽木-L流域でのTN, TPの濃度はそれぞれTN: 0.136,0.138 mg/l,TP: 0.0090,0.0095 mg/lであった.花崗岩地の濃度と比較すると,P濃度には大きな違いは無かったが,N濃度は古生層の朽木2流域ではかなり低くかった.またR流域からの流出負荷量はN, Pそれぞれ1.95,0.129 kg/ha・年,浄化率はN, Pそれぞれ86 %,77 %と推定された.花崗岩と古生層の森林地帯の5小流域での調査から,TNやTPの栄養塩類については森林が浄化に働いていることが示された.しかし流出量の変動は同一流域での変動より流域間での変動の方が大きく,森林流域の原単位を明らかにするためには、さらに多くの流域での測定が必要と考えられた. 3)森林伐採が渓流水質等に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを目的とした日本で初めての試みとなる野外での流域規模での森林伐採実験を,朽木実験地で行った.この実験地は隣り合うL, Rの2流域からなり,ともに落葉広葉樹二次林が優占する流域で,それぞれ流末端に量水堰を設け,水量・水質等の測定を行い,実験期間半ばに1流域(L流域)の森林全てを伐採(皆伐)し,手を加えないもう一方の流域(R流域)との渓流水質等の比較を行った.2流域に生育する胸高直径4.5 cm以上の全ての個体8,334本について毎木調査を実施するとともに,伐採前には115本の樹木について伐倒調査を行い,部位の測定,幹,枝,葉の重量測定,葉面積測定を行い,現存量の推定式を求めた.方形区ごとの現存量を用い,植生に基づく地形区分を試みた.現存量推定式から地上部現存量を求めると,L流域が88.2 t/ha,R流域が111 t/haと推定された.地上部現存量におけるN, Pは,L流域,R流域それぞれについてN: 231 kg/ha,295 kg/ha,P: 15.1 kg/ha,19.3 kg/haと推定された.葉量を現存量推定式を用いて求めるとL流域が3.01 t/ha,R流域が3.92 t/haとなった.これらの値はリタートラップによって測定した落葉枝量の,L流域3.61 t/ha・年,R流域4.62 t/ha・年に近い値となり,現存量推定式を用いての落葉枝量の推定の可能性が示された. 4) L流域の全樹木を伐採するいわゆる皆伐を行った結果,伐採直後にTNやTPの増加が見られた.さらに伐採後9ヶ月を過ぎたころからTNの濃度上昇が始まり,その後3年間,0.5 mg/l前後の高濃度が継続した.この濃度上昇の主因はNO3-Nの増加であった.この高濃度は季節にかかわらず通年で高い状態を維持した.2000年後半から徐々に低下し始めたが,伐採6年後の2002年でもR流域の濃度レベルには戻らなかった.前者の伐採直後の増加は,伐採時における土壌攪乱や森林がなくなり降雨が直接土壌表面にあたること等の物理的な原因によると考えられた.後者のNO3-Nの増加は,土壌呼吸の低下や,メタン吸収速度の低下の現象が現れる時期などと一致し,伐採流域の土壌中での環境の変化,物質代謝などの変化が硝化細菌の活性を高めた結果と考えられた.また,これらのNO3-Nは斜面の中下部で生産されている可能性が高いことがわかった. 5) 森林伐採のこうした渓流水質への影響は,夏の成層期には生産層では窒素についても不足する琵琶湖にとっては富栄養化に寄与する恐れがあると考えられた.それを軽減するために,伐採時の表土攪乱をできるだけ抑えること,伐採後の裸地状態を早く回復させることが重要であり,伐採・植林後の下刈り方法を検討する必要のあることがわかった.また斜面中・下部でのNO3-Nの生成を考えると,斜面下部の樹木,渓畔林の取り扱いについて検討が必要であり,山地の土地利用にあたっては,斜面下部といった土地の条件などを勘案してのゾーニングや,渓畔林の保護育成なども今後の重要な施策となると考えられた. 6) 琵琶湖では1994年9月15日に-123cm水位を記録した.これは1939年以来,実に55年ぶりの夏の低水位記録となった.これを契機に南湖を中心に沈水植物群落が回復を始め,それに対応するように水質の改善が見られた.琵琶湖全域での沈水植物群落の現況を明らかにするとともに,群落の回復が水質等に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした研究を行った. 7) 琵琶湖では1994年の大渇水に続いて,2000年(-97 cm),2002年(-99 cm)と夏期の低水位が近年頻発している.こうした渇水年を利用して,1994年と2000年には航空写真を利用しての沈水植物群落の分布面積の把握を,2002年には南湖を対象に種類組成の把握を行った.その結果, 琵琶湖には,100 %の被度に換算して1994年には1,441 ha,2000年には2,831 haの沈水植物群落が存在し,6年間で分布面積が倍増していることがわかった.そしてその面積増加の大部分が南湖での増加であることが明らかになった.出現頻度の高い種類はクロモ,センニンモ,マツモの在来種であり,それに外来種のオオカナダモが続いた. 8) 沈水植物群落の過去の分布資料を検討した結果,南湖では1950年代から1970年代にかけて急速に分布面積が減少し,1994年以降増加に転じていることが明らかになった.また1980年代の南湖での調査結果との比較から,かつての優占種である外来種のコカナダモや,そして在来種ではイバラモの減少が顕著となった.同様に過去の水質データとの比較から,南湖では沈水植物群落の増加に伴い,透明度をはじめとして,クロロフィル-a,TP,TNの濃度などの水質項目に改善がみられた.特に南湖の南部地域では.透明度は1.8 mから2.6 mに上昇し,クロロフィル-a,TP,TN(唐橋流心を除く)についてはそれぞれ 12.3μg/lが4.61μg/lに,0.026 mg/lが0.017 mg/lに,0.35 mg/lが0.28 mg/l(TNのみ1 %で有意,他は0.1 %で有意: t検定)へと低下し,水質の改善傾向が明らかとなった.9) 山東町の三島池で隔離水界を用いた沈水植物の植栽実験を行ったところ,群落が発達し,また大きな降雨もなく水界が安定した状態にあった6月末から7月末までの間で,植栽区と非植栽区とで平均値を求めると,クロロフィル-aでは24.2と72.1μg/l,濁度では16.4と46.0 NTU,TNでは0.37と0.61 mg/l,TPでは0.048と0.086 mg/lとなり,いずれも植栽区は半分程度,あるいはそれ以下の濃度しかなかった(0.1 %で有意: t検定).以上の結果から,沈水植物群落が発達するとクロロフィル-a,TP,TN,濁度の濃度が低下することが,実験的に確かめられた. 10) これらの結果から,南湖は沈水植物群落の回復に伴い,水質にもその影響が及び,水質の改善が進んでいると考えた.沈水植物が水質を改善する機構を明らかにすることが出来なかったが,単独の原因で水質が改善されると考えるのは困難であり,生態系構造を形作る沈水植物群落の発達がより豊かな生態系を創出し,系全体として生産性が向上し,それによって水質が改善されると考えた. 11) 本研究は,琵琶湖,特に南湖において,1970年代,1980年代の富栄養化によって壊滅状態にあった沈水植物群落が回復したことを初めて明らかにした.こうした56 km2もの大面積を持つ湖盆での水草帯の回復と,それに伴う水質改善が報告された事例は日本のみならず諸外国でも知られていない. 12) 琵琶湖の水質を保全するためには,湖沼内にあっては沈水植物群落を,陸域にあっては集水域の6割を占める森林生態系を安定的に維持しなければならないことがわかったが,各生態系内の構成要素の相互作用の重要性も明らかになった.しかし湖沼生態系は,強力な運搬因子である水を介して,集水域の各生態系とつながっている.これら生態系は集合として景観(域)を構成しており,景観は生態系同様に密接に相互作用を及ぼしあっている.このような景観を総合的に捉えることによって,琵琶湖のような湖沼の保全が実現できると考えられる.
Description: 環論第3号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201o004
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/527
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