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タイトル: 琵琶湖北湖沿岸域における付着藻類群集の群集構造および基礎生産
著者: 石田, 典子
発行日: 2010/03/18
抄録: 湖沼沿岸域における基礎生産は,植物プランクトンと共に,付着藻類が担っていると考えられるものの,あまり注目はされてこなかった.付着藻類の分布は光条件に影響されて沿岸域の湖岸に近い浅い水域(以降上部沿岸域と呼ぶ)に限定されるため,浅く小さい湖を除いては,生産活動における付着性藻類の寄与は浮遊性藻類のそれに比べて比較的小さいと考えられてきたことに関係すると考えられる.しかしながら,湖沼における沿岸域の面積は一般に小さいものの,生物量は沖帯のそれに比べて多く,湖沼沿岸域において,付着藻類は有機物生産の担い手として重要な役割を持つと考えられる.湖の上部沿岸域では,飛沫帯や波浪により水面が変化するという陸と水の境界面も含んでおり,付着藻類にとって特徴的な生育場所である.水力学的な攪乱が常に生じる場において付着藻類の動態を調べることは重要であると考えられるが,このような場はこれまでの湖沼沿岸域の付着藻類の研究ではほとんど無視されてきた.また,沿岸域における付着藻類群集の季節的な変化については未だ明らかではない.本研究では,琵琶湖北湖の上部沿岸域において付着藻類の種類構成,現存量および基礎生産の季節的変動を明らかにし,さらに集水域の河川の付着藻類群集との比較により,沿岸域における付着藻類の群集構造の決定についての知見を得ることを目的とした. 1.琵琶湖北湖岩礁帯の上部沿岸域にみられる岩面付着藻類群集 ―種類構成の季節変化と群集構造― 琵琶湖北湖の北部に位置する海津大崎(35°27’N, 136°05’E)の岩礁帯において,1997 年11月と1998年の2月から12月にかけて2ヶ月ごとに付着藻類に関する採集調査を行った. 調査期間中,水位は 4 月に最も高く,夏にむけて低下する傾向があった.水温は 8 月の28.5℃から 2月の 7.7℃と大きく変動し,pHは夏季に高い.溶存無機態窒素は 1.3から 20 μMと変動し,夏季に低く,冬季に高い.溶存無機態窒素のほぼ 95%を硝酸が占めるが,8月に減少し,64%であった.溶存無機態リンは 0.06 から 0.13 μMと常に低く,変動は小さい.溶存無機態窒素と溶存無機態リンとのモル比は,いずれも低い夏季を除いてレッドフィールド比より高く,リン欠乏の状態と考えられた.付着藻類群集は,飛沫帯では,年間を通して藍藻の Schizothrix sp., Calothrix parietina および不明種 (Pleurocapsaceae ?)が優占しており,これらの藍藻類の優占は,乾燥と紫外線を含む強い光線への耐性に関係すると考えられる.一方,水面下では季節および深度に関係して明瞭な優占種の交代が認められた.糸状緑藻のSpirogyra sp.は 2月から増加し,6月には全藻類量のほとんどを占めた.8,10月の高水温期にはこの種は消滅し,藻類量は極めて減少し,藍藻の数種が出現した.Cymbella turgidula などの珪藻は,低水温期に優占した.Spirogyra の優占する群集内には,珪藻の殻の一端で付着する小さな種や殻面が密着して付着する種,さらに基本的に浮遊性の種なども藻糸に絡みつくことにより出現した.Spirogyra が優占する群落では,多様性指数は低いものの,珪藻の種数はSpirogyra が見られない群落についての平均に比べて多かった.藻糸が小型の藻類種に対して基質を提供するなど,糸状藻類の存在による構造的な複雑さが珪藻の生育に有利に関係したためと考えられる. 2.琵琶湖北湖岩礁帯の上部沿岸域における岩面付着藻類の現存量および光合成の季節的変動  琵琶湖北湖岩礁帯の上部沿岸域の付着藻類の現存量は,水面下では 0.1 から 20 μg chl.acm-2の範囲にあり,4月に最大値を示した.現存量は糸状緑藻のSpirogyraの増殖に依存しているが,その成長は水温の上昇と関係し,波浪などの攪乱に影響を受けると考えられ,春から夏にかけて大きく変動した.岩面あたりの現存量は,Spirogyraの増殖と消滅および水位の変化のために,6月に最大で,8月に最小であった.また,冬季にも珪藻の増殖のために増加した.光合成活性は水面下については 0.5 から 4 μg C μg chl.a-1 hr-1となり, Spirogyraが増殖した 6月に最大値が得られたが,その種の現存量が激減した 8月にも比較的高い値を示した.同化数は水温の低い時季に低い傾向が見られ,付着藻類の種類構成にも関係すると考えられた.これらの値は中栄養までの水域について求められた現存量および同化数の値とほぼ同程度の値であった.この水域の付着藻類と植物プランクトンの現存量と光合成を面積あたりに換算して比べると,それぞれの比はSpirogyraが優占した 6月にクロロフィルに関しても光合成に関しても高く,現存量の大きい時に付着藻類の寄与は大であることを示した.琵琶湖湖岸帯の中で,独特の景観を示す北部の岩礁帯は,湖岸線に占める割合は 13%と低いが,付着藻類の生育にとって重要な要因の一つである基質の安定性が確保されていることにより,重要な生息場所の一つであると考えられる.本研究による岩礁帯における付着藻類の生産力の見積もりと群集の周期性に関する知見は,沿岸域の特性への重要な知見をもたらすものと考えられる.この研究は沿岸域全体に対する岩礁帯の寄与を示す最初の試みである. 3.琵琶湖集水域河川の付着藻類の群集構造 琵琶湖の東に位置する鈴鹿山脈北部では北側には石灰岩地域が,南側では花崗岩地域が見られる.この地域に位置する一次河道において付着藻類群集の種類構成を決定する要因として地質要因とそれに関係する化学成分の特性に注目して群集構造との関係を調べ,これとの比較により琵琶湖北部の花崗岩からなる岩礁帯の付着藻類の群集形成について考察した.調査対象とする地点は日本中部のごく狭い範囲に位置する一次河道にある.石灰岩地域を水源とする川においてはカルシウムと重炭酸が花崗岩地域の川に比べて高いなど,地質学的な特性から石灰岩群または花崗岩群と推定された地点はそれぞれ特徴的な水質を示した.花崗岩帯から流出する河川水は石灰岩帯のそれよりも貧栄養の傾向を示し,溶存無機態窒素(硝酸がほとんどを占める)やリンの濃度は石灰岩帯の川において花崗岩帯の川よりも数倍高かった.琵琶湖集水域の花崗岩帯の水域の栄養塩類濃度の年間平均は,琵琶湖沿岸域岩礁帯における値とほぼ同じであった.石灰岩および花崗岩などの異なる地質帯の川で採取した付着珪藻群集は,それらの水質との関係においてそれぞれ特徴的な群に区分された.判別分析の結果からは,同じ地質帯の地点における珪藻群集の類似性は河川水の主要化学成分により説明可能であることが認められた.この結果は,異なる地質特性に起因する河川水中の主要化学成分の相違は同じ気候区分内の珪藻群集の原植生に強く影響することを示唆した. さらにこの対象水域から石灰岩帯および花崗岩帯に位置する 2 つの一次河道を選び,付着珪藻の増加と種類構成に及ぼす水質と礫の性状の影響を礫の入れ替え実験により調べた.花崗岩帯の付着藻類現存量は石灰岩帯のそれよりも小さく,栄養塩類濃度を含む水質の相違はこれらの川の付着藻類の生長に関して制限要因であると考えられる.また,付着珪藻の増加はいずれの川においても基質が花崗岩の場合に石灰岩の場合に比べて大きく,花崗岩の表面の粗さなどの基質の影響が明らかに認められた.しかしながら,移動させた礫に発生する珪藻群集は,移動先のそれぞれの川に特有な群集構造に類似し,基質の特性の影響は小さかった. まとめ (1)上部沿岸域は河川と同じく物理的攪乱の大きい場であるが,その藻類相,密度,分布などからみて流水系とは異なる特徴を持つ場である.沿岸域では付着藻類の成長は水温や栄養塩類濃度のような物理化学的環境の変動に関係する. (2)沿岸域の付着藻類の基礎生産は,藻類現存量に関係し,糸状緑藻Spirogyra 優占期の寄与は大きい.Spirogyra の形態は単位面積あたりの現存量を多く保つことができ,光利用および栄養塩類の吸収に関して有利であると考えられる. (3)Spirogyra の増加は,藻類群集の多様性を低下させるが,一方でその藻糸に付着する珪藻に生息場所を提供するなど群集構造に影響を与える. (4)Spirogyraを含む付着藻類群集の増加には基質となる岩の性質が関係する可能性がある.琵琶湖北湖の岩礁の花崗岩質の巨岩は付着藻類に対して安定度の高い基質である. (5)糸状緑藻の出現には水域の富栄養化が背景にある.湖沼環境の指標として藻類種と量の監視が必要であると考えられる.
内容記述: 環課第22号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201k042
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/511
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