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タイトル: Phylogeography of parasitic nematodes recovered from Bufo species in mainland Japan
その他のタイトル: 日本産ヒキガエル属から得られた寄生性線虫の系統地理学
著者: Arvin Jet Bitanga, MARCAIDA
発行日: 2022/09/30
抄録: 本研究は、本州・四国・九州に広く分布するニホンヒキガエル(亜種アズマヒキガエルを含む)および本州中部に分布するナガレヒキガエルを対象とし、これらに寄生する線虫Rhabdias属およびCosmocercoides属の分類学的再検討を行ない、これらの種分化に関連する要因を探索するとともに、線虫の分類・記載に有効な研究手法について検討したものである。学位申請論文の構成および内容は以下のとおりである。  第1章では、これまでのヒキガエルの寄生性線虫の研究史を概観している。線虫(線形動物門)は、26,000種以上が報告され、生物多様性や生態系に大きく貢献している巨大な分類群で、現在でも次々に新種が発見されている。また、宿主のヒキガエル属(Bufo)については、近年種分化についての再検討が行われ、従来亜種レベルに分類されていたニホンヒキガエル(西日本に分布)とアズマヒキガエル(東日本に分布)は別種とするのが妥当とされている。このような宿主の系統関係の解明により、寄生虫と宿主の関係も再検討を必要としている。日本産のヒキガエル属からは12種の寄生性線虫が報告されているが、形態情報のみに基づく種も少なくない。しかし、線虫類はその種の多様性に比して形態的な特徴が少なく、従来の形態に基づく分類学では、誤同定や近縁種が判別できない場合が非常に多かった。分子生物学的手法はこのような分類学上の問題の解決の鍵となるが、線虫類においては比較対象となる遺伝子データが得られていない分類群も多い。したがって、線虫分類学の進展には、形態および分子的アプローチの両面からデータを蓄積することが重要であることを指摘した。  第2章では、ヒキガエル類の肺に寄生する線虫Rhabdias incertaについて、分子系統的手法および生物顕微鏡・走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて分類学的再検討を行なった。 宿主120個体から得られた74虫体を標本とし、分析に供した。従来、琉球列島を除く日本産ビキガエル類からは、R.incerta1種のみが記載されていた。しかし、分子系統的な再検討の結果、本土(本州・九州・四国)産ヒキガエル類には少なくとも3種のRhabdiasが寄生していることが判明した。形態観察の結果、最も高頻度で見られるのはR.incertaと同定された。本種は側所分布する2つまたは3つのサブグループに分かれ、宿主と同様に、地理的な要因で遺伝的に分化していると考えられた。Rhabdias sp.1は有尾類(イモリ、サンショウウオ)寄生のR.tokyoensisと系統的に近く、これから宿主転換によって分化したことが示唆された。Rhabdias sp.2は九洲から1例のみ得られ、系統的位置は分析した遺伝子によっで異なった。またR.incertaはヒキガエル属のみに寄生するスペシャリストであるが、分析に含めた同属のR.nipponicaは、ヒキガエル以外の様々なカエル類に寄生するジェネラリストであることが明らかになった。  第3章では、ヒキガエル類の腸管に寄生する線虫Cosmocercoides属について、同様に分類学的再検討を行なった。従来、日本からは主にヒキガエル類に寄生するC.pulcher、琉球列島の有尾類に寄生するC.tridensの2種が同定されている。宿主120個体から得られた、52虫体を研究に供した。形態観察の結果、大部分はCosmocercoides pulcherと同定された。しかし、SEMによる表面観察の結果、分類形質の一つとされるrosette papillaeが、従来の報告(10-18対)と異なり、21-24対存在することが示された。このことから、光学顕微鏡による従来の観察はpapillaeの見落としが多く、正確な記載のためにはSEM観察が必須であることが示された。また、ミトコンドリアDNAのCOI領域を用いた分子系統解析の結果、C.pulcherの種内変異は比較的小さく、一方で別種と考えられる別クレードとは明瞭な違いがあり、COI領域は本属の分類に非常に有効な部位である可能性が示された。分子系統解析の結果、九州のニホンヒキガエルから未同定種Cosmocercoides sp.1 が発見された。また、分子系統分析に含めた北海道のエゾアカガエルおよびエゾサンショウウオからの標本は、未同定種Cosmocercoides sp.2であることが判明した。これらは形態観察を実施できなかったため種同定には至らず、記載には新しい標本を入手する必要があった。  以上のように ヒキガエル寄生のRhabdias属、Cosmocercoides属のどちらの属においても将来的に新種となる可能性が高い未記載種が発見され、これらは従来の分類学的研究から知られていたよりも多様であることが明らかになった。また、既知種についても形態的・分子的な形質が明らかにされ、これらの成果は寄生虫分類学への貢献となる。       In order to fully assess the diversity of these parasites in Bufo spp. in Japan, we performed an integrated approach: morphological and molecular analysis. Morphological analysis was performed through light microscopy and scanning electron microscopy (SEM), while molecular analysis was done by comparing DNA sequence divergence using the partial nuclear small ribosomal DNA(18S and 28S) and partial mitochondrial DNA cytochrome c oxidase subunit 1 (COI) target regions through phylogenetic trees and pairwise distance. First, I identified through morphological analyses the lungworm species, Rhabdias incerta which appeared to be specific to the genus Bufo. Molecularly, this species is subdivided into two or three phylogroups based on the subspecies divisions and biogeographic of their hosts. In this study, it also revealed the presence of undescribed and cryptic Rhabdias species, which morphologically resembles the species R. tokyoensis. Second, I identified and redescribed the Cosmocercoides pulcher found commonly in the gastrointestinal tract of the toads. Modern morphological techniques revealed additional morphological characteristics absent from the original description. Additionally, I also molecularly characterized this species which revealed two possible new species from the same host Bufo japonicus from Kyushu and from other amphibians in Hokkaido. However, we haven't examined morphologically the voucher specimens from these localities. Therefore, we cannot describe them as two new species. For their description, we need to obtain new samples for morphological studies in the future. This study was the first to molecularly characterize the species Rhabdias incerta and Cosmocercoides pulcher, both are originally described from Bufo japonicus in Japan. Through this, it will help biodiversity study and will be useful for species delimitation and differentiation since both species, morphologically, are difficult to distinguish from their congeneric species. This study suggests the importance of scanning electron microscopy (SEM) in identifying and describing nematodes that morphologically resembles each other. With the help of it, I was able to describe and confirm the characteristics that were not mentioned in the original description of the species, Cosmocercoides pulcher. The phylogenetic evidence from the present study was able to determine that the rhabdiasids follow their hosts resources instead of their host phylogenies, in this case the host segregation, geographical distances, and isolation of the Japanese toads. Lastly, molecular approach not only helps us with the identification of species, but also reveals cryptic species that are not able to distinguish from their related species by morphology.
内容記述: 環課第67号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201k127s
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/796
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