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タイトル: 地方自治体に求められる環境志向的な行動を促進するための施策のあり方-小学校における自然体験学習と自然環境の保全活動の推進に着目して-
著者: 中川, 宏治
発行日: 2021/01/31
抄録: わが国の生態系サービスの多くは,過去と比較し,低下または横ばいで推移していると言われており,生態系サービスを持続的に利用していくためにも,森や里,川,海といった生態系(自然環境)の保全が重要であることが再認識されつつある.この課題の当事者は地域住民であり,このような地域住民主体による自然環境の保全活動を推進していくために,地方自治体には,保全活動そのものを支援するとともに,保全活動のような環境志向的な行動を実践できる人材を育成するための施策を実施していくことが求められていると考えられる.このような背景を踏まえ,本研究では,生態系サービスの持続的な利用を実現するために,地方自治体に求められる環境志向的な行動を促進するための施策のあり方について検討することを目的とした。まず,第2章において,本研究における主要な調査である「学校教諭に対するアンケート調査」「農山村住民に対するアンケート調査」「市民団体による保全活動の展開過程の分析」のそれぞれのテーマの背景となる先行研究の動向などについて文献調査により整理した. 次に,第3章では,自然体験学習の実施主体として重要な役割を担う,滋賀県の小学狡の教諭の認識に着目した.ここでは,自然環境の保全の受益の親点から自然体験学習を捉えた上で,小学校教諭の自然体験学習に対する認識や取り組みの状況をアンケート調査により把握した.分析の結果,教諭の年代や学校が独自に実施する自然体験学習の実施状況などにより,教諭の同学習の学習場所に関する選好が異なること,また,受益者として県民全体を想定するか,限定的に児童を位置づけるかによって,同学習の推進主体に関する考え方が異なることなどが示された.また,学校独自に自然体験学習に取り組んでいる学校では,森林や河川,水田・畑など,学校周辺の身近な自然環境を活用して実施していることがわかった.一方,滋賀県において象徴的な自然物である「湖」を学習場所として,独自の自然体験学習を実施している学校は少なかったものの,学習場所として「湖」を選択した回答者は,「自尊感情」や「郷愁」といった児童のアイデンテイティの形成に関わる資質・能力をより重視する傾向がみられた. 次に,第4章では,滋賀県の農山村地域の住民の自然体験学習に対する認識に着目した.農山村地域は,生態系サービスが高度に発揮されている地域であるにも関わらず,自然資源の過少利用と,それによる自然環境の劣化が問題となっている.そこで,本研究では,同問題の解決に向けて重要となる自然体験学習に対する農山村住民の認識について,居住地による認識の違いに着目しながらアンケート調査により把握した.併せて同学習の効果に対する住民の評価を仮想的市場評価法CVM:Contingent Valuation Method)により支払意思額(WTP: Willingness-to-Pay)として定量的に把握するとともに,回答者の個人属性や自然体験学習に対する認識などがWTPに与える影響を分析し,地方自治体による自然体験学習の予算化や税の再配分の方向性を検討した. 分析の結果,まず,学習効果が期待される場所と自然体験の機会の提供主体において,居住地によって認識が異なることが示された.それに対して,自然体験学習により保全が期待される公益的機能や,獲得が期待される資質・能力,学習効果が期待される場所の条件,自然体験学習の予算支出分野に関する認識など多くの項目においては,居住地による認識の差異は確認されなかった.また,自然体験学習の推進のためのWTPに関しては,居住地による差異は認められなかった.しかし,WTPに影響を与える因子として,自然体験の機会の提供主体のうち,「地域」で負,学習効果が期待される場所に関する項目では「湖」「水田」「森林」で正の有意な影響が確認された.これらの分析結果を踏まえると,農山村の自然体験学習においては居住地(=森林)と居住地(=平野)地域の住民が共通の項目を重視しているが,それぞれの地域の自然環境を活用し,学校と地域社会の連携のもとに,体験学習の事業を推進することが不可欠であると考えられた. 次に,第5章では,地域の自然環境を保全する活動として,高島市朽木においてトチノキ保全運動に取り組む市民団体の活動に着目して,Rhodesのガバナンス論を適用して,同保全活動の展開過程を分析した. 分析の結果,伐採問題が明るみに出てから自然観察会やイベントを開催し,メディアを活用した広報活動などを展開したことで,自己組織化ネットワークの構成員の拡大が進んでいることが示された.当初の最大の外圧であった,裁判を通した伐採業者からの支払いの要求に対して,まもる会は,弁護士のG氏の協力を得ることができ,また,日本熊森協会の協力を得ながら巨木の買取資金を確保するために基金を設置することができ,ガバナンスに与える負の影響を抑えることに成功していると考えられた.さらに,滋賀県の整備事業の規模が最小限に抑えられたことや,熊森滋賀が募金の呼びかけやトチノキの立木の買取りなどで協力しながらも,保全活動の実施主体としてのまもる会の主体性に配慮したことにより,保全活動はガバナンスの自律性を保ちながら進められたと考えられた. 最後に,第6章では,前章までの分析結果に基づき,自然環境の保全に向け,環境志向的な行動を促進するために地方自治体に求められる施策のあり方について検討した.
内容記述: 環論第15号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201o034s
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/794
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