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Title: | イネおよびヨシの高親和性硝酸輸送システムに関わる遺伝子の構造と発現 |
Authors: | 荒木, 良一 |
Issue Date: | 27-Jul-2006 |
Abstract: | 硝酸吸収には低親和性輸送システム (Low-Affinity Transport System: LATS)および高親和性輸送システム (High-Affinity Transport System: HATS)の輸送システムがあり、それらのシステムに関与する硝酸イオントランスポーターをNRT1 およびNRT2 がコードしていることが明らかとなっている。近年ではNRT1のリン酸化による親和性の制御、およびNAR2 によるNRT2 の機能の活性化などの分子生物学的な硝酸吸収制御メカニズムが明らかとなっており、分子レベルでの硝酸吸収メカニズムの制御を理解することが重要となっている。 本研究では作物の効率的な硝酸同化の基礎研究として、硝酸同化の第 1段階であるイネ科植物の根の表皮細胞における NRT2 を介した硝酸吸収メカニズムに注目し、イネ(Oryza sativa L.)の NRT2 および NAR2 の解析を行なった。さらにヨシ(Phragmites australis)の硝酸吸収能力の評価を生理学および分子生物学レベルで行なった。概要は以下の通りである。 第1章 高等植物における硝酸イオントランスポーター 第1章ではLATSおよびHATSを支配する遺伝子NRT1 およびNRT2 の単離から現在までの研究の流れについて概説した。また、近年明らかにされつつある NRT2の機能活性を制御すると考えられる NAR2についてもふれ、現在明らかになっている分子レベルでの硝酸吸収メカニズムについて解説し、本研究で注目すべき部分を明らかにした。第2章 イネの高親和性硝酸輸送遺伝子のin silico 解析 第 2 章ではイネのゲノムデータベースからイネの NRT2 および NAR2 (それぞれ OsNRT2 および OsNAR2) を単離し、その配列から推測される 4 つの OsNRT2 (OsNRT2.1 〜 OsNRT2.4)および 2 つのOsNAR2 (OsNAR2.1 とOsNAR2.2)の基礎的データをin silico 解析により取得した。その結果、OsNRT2.1 とOsNRT2.2 は ORF の配列が同一であるが、5’および 3’UTR が異なる遺伝子であることを明らかにした。さらに、各々の遺伝子の 5’UTRにおいて転写制御機構に関わる TATA ボックスあるいは GATA モチーフの配置の違いを明らかにし、それら遺伝子間の転写制御の違いを予想した。また、NRT2 のアミノ酸配列を元にして系統樹を作成した結果、OsNRT2sが単子葉植物の NRT2グループに分かれるものと AtNRT2.7が含まれる単純に進化系統的に分類できないグループに分かれることから、シロイヌナズナでみられたような NRT2ファミリーの構成がイネでも認められることを明らかにした。
第3章 イネの高親和性硝酸輸送遺伝子の発現と硝酸吸収との関係
第 3 章では、前章で抽出・同定した 4 つの OsNRT2 と2つのOsNAR2 の機能を明らかにするため、硝酸誘導時における硝酸吸収とそれらの遺伝子の発現パターンを、硝酸処理前に窒素飢餓前処理あるいはアンモニア前処理を行なった幼植物体を用いて経時的に解析した。窒素飢餓前処理を行なった場合、OsNRT2.1、OsNRT2.2、OsNRT2.4 とOsNAR2.1 の発現および硝酸吸収は硝酸処理後ほぼ同じ時間から誘導され、上記遺伝子の硝酸吸収への関与が示唆された。しかし、アンモニア前処理を行なった植物体では、OsNRT2.1 およびOsNAR2.1 の発現と硝酸吸収は遅れて誘導され、OsNRT2.2 は硝酸処理開始前から発現していた。以上の結果より、4つのファミリー遺伝子の中でOsNRT2.1 およびOsNAR2.1 が硝酸吸収に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
また、窒素飢餓前処理を行なった幼植物体の OsNRT2.1 および OsNRT2.2 の発現量は、アンモニア前処理を行なった時と比較して明らかに増加していた。しかし、窒素飢餓前処理とアンモニア前処理を行なった場合の硝酸吸収量の増加速度には大差がなかった。一方、同時刻のOsNAR2.1 の発現量は上記両遺伝子とは異なり、両前処理区間で劇的な発現量の差異が認められなかった。以上の結果から、過剰に硝酸誘導されたOsNRT2.1 およびOsNRT2.2は転写後あるいは翻訳後調節を受けていること、さらに他の植物で報告されているように、 OsNRT2.1の活性化に OsNAR2.1が関与することが示唆された。 第4章 ヨシの高親和性硝酸輸送能力の評価
第 4章では、琵琶湖周辺の水際に生息するヨシの硝酸吸収能力に注目し、ヨシの硝酸吸収速度の評価とNRT2 の単離を行なった。その結果、硝酸吸収に関するKmとVmaxの差異がヨシ集団内で認められた。また、硝酸誘導後のKmとVmaxの差異が大きい 2 つのヨシクローン株(W-6およびW-8)のNRT2 は硝酸誘導時に異なる発現パターンを示すこと、両クローン間のNRT2のアミノ酸残基が 3 つ異なっていることを明らかにした。以上の結果を総合し、自然集団のヨシの硝酸吸収能力には遺伝的差異があり、硝酸吸収能力の高いヨシを選抜・育種することが可能であると結論した。
本研究は未解明であったイネおよびヨシの硝酸吸収に関与する遺伝子を明らかにした。イネでは OsNRT2.1 および OsNAR2.1 に焦点を絞り硝酸の吸収効率を高めて窒素源の利用効率を高める育種戦略の可能性を示した。ヨシではNRT2 を単離し、硝酸除去能力を人為的に向上させる可能性を明示した。以上のように、本研究は冠水土壌条件に適応した単子葉植物硝酸吸収関連遺伝子群について、先駆的な研究成果を上げたものである。 |
Description: | 環課第6号 |
NII JaLC DOI: | info:doi/10.24795/24201k016 |
URI: | http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/505 |
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