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タイトル: 木津川砂州の地下間隙水および地上小水域における生元素動態
著者: 安佛, かおり
発行日: 2007/03/23
抄録: 河川中流域では,河川水は流路と砂州や河床の間隙水域を行き来する。このため,河川の水質は,これらの間隙水域で起こる作用により影響を受けることになる。本研究では,河川中流域における河川水の水質形成に重要な役割を担っていると考えられる砂州に着目し,砂州の水域における栄養塩を中心とした生元素の動態を明らかにすることを目的とした。 本研究を行った木津川の中流域では,長さ 1 km 規模の砂州が交互に形成される。この規模の砂州においては,間隙水域の物質循環に関する研究例が比較的少ない。本研究では,砂州の水域として,地下間隙水域と流路から隔離された小水域“たまり”に注目し,調査・実験を行った。 1.砂州内地下間隙水における生元素動態 地下間隙水域の調査では,野外分布調査と室内実験を行った。野外調査では,側流路と砂州内の干出した流路に沿って間隙水採取定点を設け,物理化学因子と栄養塩,溶存有機 炭素濃度の水平・鉛直分布を調べた。この調査では,各定点で地下水面より 160 cm までの深度の間隙水を採取した。また,この砂州の下流に位置する裸地砂州の上流端部において, 伏流水の流下方向に沿って10 m のラインを設けて同様の調査を行った。この調査では,地下水面より5ないし 10 cm の深度の間隙水を採取した。室内実験は,砂州上流端部から採取した堆積物を用いて行なった。室内実験では,堆積物を充填した水路に河川水を流下させる人工水路実験と,堆積物を河川水に懸濁させた堆積物スラリー実験を行い,堆積物のもつ生物地球化学的作用を検証した。 今回調査を行った間隙水域では,水温や主要イオン成分濃度からは,間隙水と河川水との間に差異は認められなかった。このため,これらの間隙水域には河川水が浸透していると推測される。 本調査を行った間隙水域は,干出した流路の植生域の浅層を除いて好気的な環境にあった。 河川水と間隙水の両方において,溶存無機窒素のほとんどは硝酸態窒素が占めていた。硝酸態窒素の濃度は,側流路および干出した流路の間隙水と河川水のいずれの間にも,平均値の差異は認められなかった。だたし,干出した流路の植生域の浅層間隙水では,硝酸態窒素濃度が著しく低かった。これらの地点は,硝酸態窒素あるいは無機窒素の損失先として働くと考えられる。上流端部の調査では,硝酸態窒素濃度は,河川水と比べて間隙水でより高い値を示した。間隙水のアンモニア態窒素と亜硝酸態窒素の濃度は,調査を行なったほとんど全ての地点で河川水と比べて低かった。このことは,間隙水域がこれらの窒素化合物の損失先になっていることを示唆している。なお,これらの化合物の濃度は,砂州上流端部ですみやかに低下していた。 上流端部の調査地から採取した堆積物を用いて,人工水路実験と堆積物スラリー実験を行なったところ,流下後あるいは培養後は,アンモニア態窒素や亜硝酸態窒素濃度の低下と,硝酸態窒素の濃度の上昇がみられた。堆積物スラリー実験において,硝化阻害剤を加えたところ,アンモニア態窒素および硝酸態窒素の濃度変化はほとんど見られなかった。この結果から,間隙水中における無機窒素化合物の濃度変化に硝化が寄与していることが推測された。 表流水からの距離を違えて堆積物を採取し,各堆積物のもつ生物地球化学的作用の比較を行なった。人工水路実験,堆積物スラリー実験ともに,アンモニア態窒素や亜硝酸態窒素の減少量に,地点間の差異はみられなかった。一方,硝酸態窒素の増加量は,表流水に近い地点ほど大きかった。また,堆積物の硝化活性は表流水に近いほど高い値を示した。堆積物の交換態アンモニウム量は,流路に近いほど高く,このアンモニウムを利用した硝化が,高い硝化活性と結びつき,硝酸態窒素の増加量における地点間差異を生み出したと考えられる。 側流路の間隙水におけるリン酸態リン濃度は,河川水と差異はなかった。一方,干出した流路の間隙水ではこれらと比べてリン酸態リン濃度が低かった。干出した流路では,流路から離れた定点でリン酸態リン濃度が低かった。これらの結果は,間隙水中を移動する間にリン酸態リンが除去されたことを示唆している。一方,砂州上流端部の間隙水におけるリン酸態リン濃度は河川水より高かった。この結果は,同様に河川水の浸透部である側流路の結果とは異なる。間隙水中でリン酸態リン濃度の増加がみられたとき,河川水のリン酸態リン濃度は,比較的低かった。河川水のリン酸態リン濃度が,間隙水中のリン酸態リンの動態に影響を及ぼしていた可能性がある。なお,この増加に関しては,滅菌処理した堆積物を用いた人工水路実験でもみられたため,非生物作用の寄与が推測された。間隙水中のリン酸態リンの動態に関与しているメカニズムの解明はこれからの課題である。 溶存有機炭素濃度は,河川水,側流路の間隙水,干出した流路の間隙水の順に低下した。砂州の上流端部でも徐々に濃度が減少した。間隙水域は溶存有機炭素の損失先として働くと推測される。 このように,砂州内間隙水域は窒素やリンなどの生元素化合物の濃度を変化させる様々な生物地球化学作用の起こる場として機能していることが明らかになった。 2.砂州上小水域における生元素動態 砂州上には流路から切り離された一時的な小水域“たまり”が点在する。たまり調査においては,最初に,砂州内に点在するたまりにおいて,物理・化学・生物因子と生元素化合物の分布変動を調べた。この調査では,これらの分布変動と河川の水位変動や季節との関係に注目した。次に,たまり水と間隙水との水交換とたまり内の藻類群集による一次生産に関して野外実験を行い,たまり水の栄養塩動態に対するこれらの寄与を検討した。たまりは水位変動とともに出現と消失を繰り返した。たまり水の主要イオン成分濃度は,河川水のそれと区別されなかった。また,たまり水に投入された臭化物イオンは時間の経過とともに希釈された。調査地のたまりは,主に,河川水と砂州内間隙水からの湧水により維持されていると推測される。 たまり水の溶存無機窒素やリン酸態リンの濃度は,調査日間,および,たまり間で大きく変動した。増水による撹乱から時間が経つと河川水との差異が大きくなり,多くのたま りで河川水より低い値が示された。1 年間を通してみると,約半数のたまりにおいて,溶存無機態窒素およびリン酸態リンの濃度が河川水より有意に低かった。 増水からの時間経過とともに,浮遊・底生藻類の現存量はともに増加した。この結果は,藻類の増殖と前述した栄養塩濃度の低下との結びつきを予想させる。増水が比較的頻繁に起 こる7 月から10 月において,これらの間には有意な負の相関がみられた。また,1 年間を通してみると,栄養塩濃度と藻類現存量の季節変動は,河川水位の変動様式と関連して,およそ逆の傾向を示した。ただし,長期間撹乱のなかった秋季と冬季の間には,藻類現存量に大きな差異がないにも関わらず,栄養塩濃度は冬季に増加した。 たまり水の溶存無機窒素とリン酸態リンの濃度は,たまりが形成された場所により差異がみられた。たまりでみられた栄養塩濃度の水平的な分布の特徴は,砂州内間隙水のそれと類似していた。この結果は,たまりの栄養塩濃度に対する間隙水からの湧水の影響を示唆している。 たまり水とその周囲の間隙水における栄養塩化合物の濃度を比較すると,増水直後は両者とも同じ値を示したが,増水から時間が経つと両者に差異が生じた。たまりの上流側の間隙水に比べて,たまり水では硝酸態窒素やリン酸態リンの濃度が低かった。増水後,藻類現存量の増加とともに,藻類の一次生産量が増加した。この生産に伴う栄養塩の取り込みがたまり水における栄養塩濃度の低下を引き起こしたと考えられる。また,たまり水の平均滞留時間は増水後の河川水位の低下とともに増加した。この滞留時間の増加は,たまり系内で起きる過程がたまり水の栄養塩現存量に及ぼす影響をより強めたと推測される。 たまり水の栄養塩濃度は,時空間的に様々に変化した。この多様性は,地下間隙水との水交換と,藻類による取り込みなどたまり系内での作用が複合的に関与して形成されたと考えられる。 まとめ 以上の結果から,木津川の砂州における間隙水域やたまりは栄養塩に関わる様々な過程の働く場として機能していることが明らかになった。砂州の上流端や植生域,たまりなどの砂州上の構造は,砂州における生元素化合物の動態に多様性をもたらしていると考えられる。また,本研究で明らかになった砂州の水域における窒素やリンあるいは溶存有機炭素の保持あるいは除去機能は,砂州水域と表流水域との間の水交換を通して河川の水質へと反映されると予測される。
内容記述: 環課第7号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201k017
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/500
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