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タイトル: 琵琶湖におけるケイ素画分の特徴とそれに影響を及ぼす要因
著者: 安積, 寿幸
発行日: 2011/07/26
抄録: はじめに 近年,人間活動の増大が陸水や海洋の栄養塩(窒素,リン,ケイ素)の循環に影響を与えている.この人間活動の増大は,河川や湖沼,海洋の富栄養化を引き起こすだけでなく,ケイ素循環にも影響をおよぼすと考えられている.特に湖沼の富栄養化やダムの建造は,湖沼において珪藻生産や珪藻殻の沈降・堆積を増加させ,陸域から海洋へのケイ素の輸送を減少させる(ケイ素欠損仮説)要因として注目されている.このように,人間活動による栄養塩負荷の増大や陸域でのダム建設による停滞水域の増加に伴う地球規模のケイ素循環の変化により,陸水や海洋におけるケイ素循環に関する研究の必要性が高まっている. そこで本研究では,ケイ素シンクの場として作用している琵琶湖において,湖のケイ素循環におけるケイ素画分の特徴とそれに影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とし,特に湖水中でのケイ素画分の分布変動や湖底堆積物からのケイ素の回帰に注目し,研究を行った.1.琵琶湖およびその集水域河川における各ケイ素画分の分布 湖沼におけるケイ素循環を解明するための研究手法の 1 つとして,琵琶湖およびその流入河川水中の 4 つのケイ素画分(溶存態反応性ケイ素,コロイド態ケイ素,生物態ケイ素および鉱物態ケイ素)の濃度の空間的な分布や時間的な変動を調査した.さらに,河川や湖沼におけるケイ素循環に対して,各ケイ素画分の分布変動がどのように寄与しているかを評価した. 各ケイ素画分の分布変動に関して,琵琶湖北湖最深部付近(水深約90 m)から,琵琶湖流入河川の 1 つである犬上川河口部を結ぶ直線上の 6 地点において,鉛直的および水平的に調査を行った.さらに琵琶湖流入河川の一つである犬上川において上流から河口部の間の4 地点で調査を行った. 犬上川河川水中における溶存態反応性ケイ素(以下DRSi とする)の濃度は,琵琶湖表層(本研究では深度0–15 m 層)水のDRSi 濃度と比較して約5 倍高かった.河川水中の生物態ケイ素(以下BSi とする),鉱物態ケイ素(以下LSi とする)およびコロイド態ケイ素(以下 CSi とする)の濃度は,集水域地質由来のケイ素の流出や河川付着藻類の剥離の影響により,琵琶湖水と比較して高かった.また,琵琶湖において,沿岸域の表層水は深層(本研究では深度 30 m 以深)水と比較して CSi や LSi 濃度が高かった.これらは,LSi 含有量に富んだ沿岸域堆積物の湖水への再懸濁や,CSi および LSi 濃度が高い河川水の流入による寄与を受けている結果であると示唆された.さらに,琵琶湖深層水における高いDRSi 濃度は,懸濁粒子の分解に伴うケイ素の回帰や湖底堆積物からのケイ素の溶出による影響が考えられた.このように,琵琶湖とその集水域河川におけるケイ素画分の分布変動は,琵琶湖の流入河川,沿岸域,沖域(表水層と深水層)によって異なり,それぞれの場の生物地球化学的な特徴の影響を強く受けていると考えられる. 2.琵琶湖湖底堆積物からのケイ素の回帰 琵琶湖において,水温成層が生じる期間に見られる湖底直上付近のDRSi の増加は,湖底堆積物からのケイ素の回帰による影響が考えられる.そこで,湖底堆積物からのDRSi の溶出速度やその溶出に影響を与える因子を調査した.そして,琵琶湖のケイ素循環に対する湖底堆積物からのDRSi の回帰の影響を評価した. 琵琶湖北湖最深部付近(Sta. 1:水深86 m 地点)における 2005 年4 月から2006 年3 月にかけて,月に一度の頻度で堆積物コアを採取し,それを用いて現場の水温と同じ温度である 8℃および暗条件で DRSi の溶出実験を行ったところ,調査期間を通して湖底堆積物からのDRSi の溶出速度は60 ± 4.1 mg Si m–2 day–1 で,ほぼ一定の値を示した.一方,沿岸域(Sta. 4:水深 9 m 地点)で採取した堆積物コアにおいて,Sta. 1 と同じ培養条件(培養温度8℃,暗条件)で実験を行ったところ,湖底堆積物からのDRSi の溶出速度は27–29 mg Si m–2 day–1と,Sta. 1 の場合と比較して小さかったが,夏期に沿岸域の湖水で見られるような水温である20℃で実験を行ったところ,DRSi の溶出速度は46–48 mg Si m–2 day–1 と,Sta. 1 の培養温度8℃で行った溶出実験の値に近づく結果となった.つまり,沿岸域において水温が高くなると,湖底堆積物からのDRSi の溶出速度は促進されることが示唆された.つまり,沿岸域の湖底堆積物からの DRSi 溶出速度は,水温の季節的な変化の影響を受けると考えられた.さらに,堆積物表層(0–2 cm)において,堆積物中のBSi やDRSi の含有量は,沖域の堆積物(Stas. 1–3)で,それぞれ0.34–0.38 kg m-2,0.12–0.22 g m-2 である一方,沿岸域(Sta. 4)では,それぞれ0.14 kg m-2,0.05 g m-2 と沖域と比較して低かった.つまり,湖底堆積物からのDRSi の溶出速度は,堆積物中のDRSi やBSi の含有量によっても影響されることが示唆された.沿岸域の湖底堆積物からのDRSi 溶出速度は,同じ培養温度で比較した場合,沖域の湖底堆積物からのDRSi 溶出速度より小さかった.しかしながら,沿岸域で見られる水温やpH の季節的な変化や波浪による湖底堆積物の攪乱は,むしろ沿岸域の湖底堆積物からの DRSi 溶出速度のほうが沖域の湖底堆積物からの DRSi 溶出速度よりも大きい可能性を暗示している.さらに,沿岸域のケイ素循環を評価するうえで,珪藻の高い生産が生じる沿岸域では,湖底堆積物からの DRSi 溶出速度だけでなく湖水中のケイ素粒子の分解に伴うDRSi の回帰の影響もまた考慮する必要があると考えられる. まとめ 本研究は,湖のケイ素循環におけるケイ素画分の特徴とそれに影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした.琵琶湖におけるケイ素画分の分布変動は,琵琶湖の流入河川,沿岸域,沖域(表水層と深水層)によってかなり異なっており,それぞれの場の生物地球化学的な特徴の影響を強く受けていると考えられた.また,湖底堆積物からの比較的高いDRSi の溶出速度は,琵琶湖の DRSi 濃度変動に影響を与えることが示唆された.さらに,沿岸域の水深の浅い水域に存在する堆積物と沖域の水深の深い水域に存在する堆積物との間のDRSi 溶出速度の違いは,水温,pH,堆積物中のBSi 濃度の違いによって影響されることが考えられた. 近年,人間活動の増大が,陸水や海洋において栄養塩の循環に影響を与えている.琵琶湖もまた富栄養化を経験しており,琵琶湖北湖において,近年DRSi 濃度が増加傾向にあることから,ケイ素の循環系もなんらかの変化を受けていると考えられる.海洋や湖沼において,主要な一次生産者である珪藻にとっての必須栄養素であるケイ素の循環過程の変化は,植物プランクトン群集を変動させ,さらには植物プランクトンが関わる食物網への影響も考えられるため,湖のケイ素循環を解明することは,環境科学的な視点からも重要な研究課題である.
内容記述: 環課第29号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201k058
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/499
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