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Title: カヤネズミ(Micromys minutus)の営巣特性の解明とその活用による生息地の保全に関する研究
Authors: 畠, 佐代子
Issue Date: 26-Jul-2011
Abstract: カヤネズミ(Micromys minutus)は体重7-14gの小型齧歯類で,日本産ネズミ類のうち最小の種である.本種は草本類の生葉を編んで植物体の地上部に直径8-10cmの球形の巣を作り,子育てを行うという,ネズミ科では極めて稀な生態を有する.かつて日本では,草地は屋根材や飼料,緑肥などの生活の資源を提供する重要な場所であった.しかし近年の都市開発と農業の近代化により草地の経済的な価値が消失し,草地面積が減少を続けた結果,多くの草地性の動植物が絶滅の危機に直面している.カヤネズミもその一種であり,国内では23都府県においてレッドデータブック(RDB)に記載され,個体群保護の要件として生息地保全の重要性が指摘される.しかし保全策を立てるために必要となる,本種の生態や生息状況に関する報告は少なく,十分に把握されていない. カヤネズミは営巣の際,葉を植物体から切り離さずに編むため,営巣場所は草地の質的な変化の影響を受けやすい.そこで,本種の営巣特性を明らかにし,それを活用することで,適切な生息地の保全策が提示できるのではないかと考えた.一般に,野生哺乳類は個体の観察が難しく,野外調査は困難を伴うが,本種の巣は特徴的で同定が容易である.巣のデータを活用することで生息状況を把握することが可能となり,巣の増減は,生息地の保全効果を知る簡便な指標となる.急速な減少が危惧されるカヤネズミにおいて,その生息場所を保護することは,本種の食物連鎖に直接つらなる生態系の上位種の命を守るだけでなく,草地を利用する他の多くの野生生物の生息地を維持することになり,草地生態系の生物多様性保全に貢献することが期待される. 本研究ではまず,カヤネズミの国内の生息状況を把握するために,1999-2001年にアンケート調査を行った.その結果,沖縄県を除く宮城県以南の1都2府37県328地点で生息情報を得た.様々な草地環境が営巣場所に利用されていたが,最も多く巣が見つかったのは河川敷・堤防で,休耕・耕作放棄地がそれに次いだ.営巣期間はおおむね5月から11月であった.繁殖は秋に集中する傾向があった.営巣植物はイネ科を中心に6科28種が記録され,イネ科植物が主要な巣材であることが示唆された.特にオギ(Miscanthus sacchariflorus)とススキ(Miscanthus sinensis)は,毎年記録数が突出して多かった. また,カヤネズミの営巣の特徴を把握するために,1999-2005年に浸水頻度と植生の異なる3タイプの生息地(河川敷,湿地,定期的な刈り取りが行われる堤防)において,営巣特性(営巣植物,巣の構造,巣高と植物高,巣の耐久期間)を調べた.それぞれの生息地の優占草種を反映して,様々な草本植物が営巣に利用されていたが,いずれの生息地でも主な巣材はイネ科高茎草本であった.巣は1種類の植物で作られた「単材巣」と,複数 の種類の植物で作られた「混合巣」の2つのタイプが見つかった.混合巣は堤防でよく見つかり,その多くはイネ科高茎草本とイネ科低茎草本を組み合わせて作られていた.それぞれの調査地において,営巣に利用された植物種間で,植物高および巣高に有意な差があった.さらに,それぞれの植物種において,植物高と巣高には有意な正の相関があった.すなわち,巣高の違いは主に植物の高さの違いによってもたらされると考えられる.全ての巣は8週間以内に崩壊したが,低茎草本に作られた巣の多くは4週間以内に壊れ,イネ科高茎草本に作られた巣の方が寿命が長く,耐久性に優れていることがわかった.高茎草本は草丈が十分に高く,かつ巣を維持する期間も長いので,カヤネズミにとって安全な営巣場所であると考えられる.また,湿地では繁殖期後の冬に新しい巣が見つかった.これらの巣は湿地周辺部のススキなどの低い位置に作られており,カヤネズミは主な巣材であるイネ科高茎草本が枯れる冬には,寒さを避けるために,日当たりの良い場所のイネ科群落に巣を作って過ごすと考えられる. 前述のとおり,巣が多く見つかった環境や,営巣に利用された植物の種類には偏りがあり,一見似通った草地環境にも,カヤネズミにとって好適な生息環境や営巣場所が存在することが示唆された.これを明らかにするため,先の調査で明らかになった本種の生息環境や営巣特性を踏まえて,生息適地を決める要因と生息場所の選択について検証した. 生息適地を決める要因を把握するためには,対象種の分布情報と生息場所の周辺の環境を含む広域的スケールでの評価が必要となる.そこで,広域でカヤネズミの生息が確認されている滋賀において,2003-2004年に様々な環境における122地点のイネ科草地で,巣の有無,地形・土地利用,河川からの距離,優占種および営巣植物を調べ,各要因を数量化Ⅱ類で評価した.その結果,樹林地の面積と河川・池・湖等緑地帯の面積が大きく,農耕地の面積が小さい環境が,本種の生息に適していることが示唆された.一年生イネ科が優占する環境は,負の影響として顕著であった.樹林地の割合が高いことが生息にプラスになる理由としては,山地の生息地には耕作放棄地が多く,高茎草地が成立する環境が保たれやすいのに対し,平野部の休耕地はローテーションによりすぐに耕作されてしまうからだと考えられる.また,河川からの直線距離と巣の分布状況については,それぞれの調査ルートで不連続に巣が確認されたことから,過去に河川沿いに分布を広げたものの,現在は道路等で生息地が分断され,孤立している可能性が示唆された. 生息場所の選択には,植物群落や営巣植物種といった,小さいスケールで評価を行う必要がある.そこで,経年調査で比較的安定した生息が確認されている淀川河川敷において,2004年の春15地点と秋8地点で,巣の有無,営巣植物および植物群落の優占種を調べた.その結果,営巣地点の優占種と営巣植物の利用度は,春秋を通じてオギが最も高かった.さらに植生図との比較から,水際から離れた高水敷のオギなどのイネ科高茎草本群落と,カヤネズミのエサとなるエノコログサ(Setaria spp.)などの一年生イネ科低茎草本がセットで存在する景観が,好適な営巣環境として示された.オギ群落の分布が少ない地域では営巣率は低くなり,オギ群落の維持が営巣場所の保全に重要であることが確認された. さらに,実効性のある草地管理の手法を提示するため,実際の河川管理で対応が可能な範囲で刈り取りスケジュールを操作して,堤防上のカヤネズミの個体数増加の効果を検証 した.堤防のような浸水頻度の低い環境下のイネ科高茎草地では,管理上年1-3回,機械による一斉刈り取りが行われるため,カヤネズミの安定的な個体群の存続が困難な状況となっている.そこで,通常年2回植生の全面刈りが行われる堤防において,2004-2005年に春と秋に堤防を複数区画に分け,堤防上に常に植生が残るように2-3週間隔で草を刈り,営巣状況と植生の変化を調べた.その結果,過去の年と比べて堤防全体の営巣場所としての利用期間が長くなり,巣数が増えた.複数回に分けて草刈りを行うことにより,堤防上のハビタットの時間的連続性が保たれ,カヤネズミにとって安定した生息環境が維持されたと考えられた. 春の刈り取り後,オギの成長に伴って,刈り取られた区画の順に営巣が再開され,その後は刈り残し区画に営巣が集中した.秋の刈り取り後は,10月に除草された区画では全く巣が見つからず,オギの草丈も回復しなかった.繁殖期後に刈り取られた区画では,オギの成長は殆ど変化しなかったが,営巣数は春と比べて減少した.巣高と植物高の関係および営巣植物の種類についてManly指数で評価したところ,営巣には120-160cmの草丈のオギが好まれ,80cm以下のオギは避けられた.一年生イネ科草本もオギと同様に好まれたが,利用はオギの草丈が回復するまでの期間に集中した.カヤネズミが営巣を再開した時,オギの草丈の平均は,刈り取り月に関わらず100cmを超えていた.刈り取り月が遅いほど再生したオギの草丈は低くなり,6月に刈り取りが行われた区画では,オギの草丈の伸長は最適な営巣位置の下限近くで平衡に達した. 以上のことから,カヤネズミの生息には,土地利用の形態に関わらず,営巣場所となるイネ科草本群落が維持されている草地が必要であることが明らかになった.営巣場所はイネ科高茎草本に依存し,特にオギの選好性が高い.したがって本種の生息地の保全計画を立てるに際しては,オギ群落の保全を特に考慮することが重要である.堤防のように定期的な刈り取りが行われる場所では,営巣場所となるオギなどのイネ科高茎草本が営巣可能な草丈に回復する日数を考慮して,複数回に分けて刈り取りを行うことで,カヤネズミの個体群を保護する効果的な植生管理が可能になると考えられる.現在,京都府の木津川と東京都の平井川において,河川工事や堤防管理に際し,カヤネズミの生息に配慮した段階的な植生の刈り取りが行われている.また,国土交通省淀川河川事務所では,カヤネズミの生態や刈り取りの注意事項をわかりやすくまとめた堤防除草マニュアルのチラシを配布するなど,手法の普及が進められている.
Description: 環論第7号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201o018
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/526
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