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タイトル: 震災リスクマネジメントに関する研究
著者: 長能, 正武
発行日: 2006/03/23
抄録: 本論文は、6章で構成している。 第Ⅰ章は、序論であり、研究の動機と目的、関連する研究の概要、論文の構成と概要について述べている。 第Ⅱ章は、最近の主要な震災の事例の整理を試みている。 まず、1923年関東地震から1995年阪神・淡路震災以前の近年における国内の主な被害地震、および国外の主な被害地震の特徴について概要を整理した。大規模な震災の発生頻度は低く、被害の状況はその時代や地域の特性を反映している。 次いで、阪神・淡路震災の被害や推移・展開状況と対応活動が示した教訓、課題について検討を試みた。 地震後の緊急対応活動は、その後の状況の展開に大きな影響を及ぼすから緊急時の対応活動について整理を行っている。更に、災害対応活動の中枢として期待される重要な公的機関などの施設の被災状況とその影響について聞き取り調査と資料収集した結果に基いて整理している。大規模な震災では災害対応を担う公的機関や医療機関などの職員、施設も被災し対応活動、特に緊急初動期の活動に大きな影響を与える。 社会システムにおいてビジネスが果たしている役割はきわめて大きい。阪神・淡路震災がビジネスに及ぼした影響について検討を試みた。更に、業務活動が行われている時間帯の地震発生であったならば被害や対応活動の様相は異なっていた可能性が高いと考え、建築学会・近畿支部の調査活動の一環として行った被災地住民へのアンケートに職場の被害状況に関する質問項目を組み込んだ調査結果について整理した。被災地のビジネスは大きな被害を受け業務時間帯に発生した地震であったならより重大な事態となった可能性が高い。 被災地や周辺の地震に対する反応や心理面への影響、対応行動は今後の震災対応計画について多くの示唆を与えると考えられる。関西地域に居住する企業従業員に対して行ったアンケート調査結果から震災とヒトの心理、対応行動について整理を行った。 阪神・淡路震災は、社会がほとんど活動していないまだ暗い未明に発生した震災であったが地震の発生が異なる時間帯であったなら様相が大きく異なることを強く暗示した。そこで、地震発生の環境と震災状況のかかわりについて発生が6時間後と仮定した場合の被害 と対応状況について定性的なシミュレーションを試みた。地震発生の時刻による社会活動状況の違いは震災の様相を大きく変えることを示した。 震災事例のまとめとして、阪神・淡路震災を含む最近の震災事例からの教訓と課題について検討を行った。震災対策には事前の被害軽減のハードシステム対策、意識向上の災害教育、対応能力を向上する訓練などとあわせて災害発生後の迅速、的確な対応活動を運営するための戦略・計画の策定が連動する統合的なリスクマネジメント戦略が重要である。 第Ⅲ章では、震災リスクマネジメント体制を構築する枠組みとプロセスについて述べている。 まず、リスクマネジメントの基本的な考え方、進め方について整理した。 次いで、震災を含む災害のリスクマネジメントの取り組み状況についていくつかの事例について概要を述べた。リスクマネジメント体制の構築には中核となって推進する体制が必要である。リスクマネジメント体制の構築と育成には組織の長、幹部の支援、リーダーシップが重要な役割を果たす。リスクマネジメントチームのあり方について述べた。 震災リスクマネジメントを推進するチームとその中核となるリスクマネージャーの役割が重要になる。適正なリスクマネジメント体制の運営には、リスクマネジメント責任者、リスクマネージャーに経営資源を活用する権限と責任が与えられなければならない。 さらに、震災リスクマネジメント体制の基盤となる震災事例、震災に関連する知識、開発技術などが整理された知識基盤の必要性について述べ、震災リスクマネジメント体制構築プロセスについて検討した。 まず、震災リスクマネジメント体制の構築の進め方について述べ、戦略構築に関連する手法の概要を整理した。 第Ⅳ章では、震災リスクの調査と評価について述べた。 リスクマネジメント体制構築の基礎となる震災に関連するリスクを環境科学の立場からアセスメント調査と被害想定調査の進め方とリスク評価の留意点、課題について述べた。 地震活動環境を評価するために、地震ハザード解析手法と研究、調査の状況、データベースの構築の様子について述べ、想定地震を設定するため、これらの成果を利用する上での留意点について述べた。 地震の直接被害に結びつく地震動の特性は、地盤特性に大きく関連している。地形、表層地質の観察・評価とマイクロゾーニング調査の観察のポイントや手法の概要を整理し、弾性波探査による地盤構造調査や微動測定、地震動予測の事例について述べた。 更に、社会システムの環境における震災リスクを検討するために、人身被害や火災、業務障害などの誘因となる建築物の震災リスクの検討のため住まいの空間環境のリスクの見方、ビジネス空間環境のリスクの見方、業務遂行プロセスのリスクの見方について概要の整理を試みた。 アセスメント調査を行った震災リスクと想定被害は、状況の時間的推移としてシナリオの形で表示すると課題の認識に有用である。震災状況のシナリオを構成する手順について述べた。震災リスクアセスメント調査により、リスク要因を抽出し、被害想定と対応活動について検討しながら進める状況の時間的な経過シナリオの構成を検討する過程で脆弱性や対応体制の課題が抽出される。 シナリオの例として訓練を企画・計画する関係者の震災イメージづくりを支援するために構成した首都圏直下地震の想定シナリオストーリーの概要を示した。 第Ⅴ章では震災への対応戦略について述べている。 震災リスクの調査と抽出評価された課題について重要度、対策の難易度、優先度の設定作業に基づき震災対策を立案・策定し、実施を推進しなければならない。対策は、事前の被害軽減のためのハードシステムの性能強化策と震災リスクマネジメント教育、訓練、マニュアルの策定・整備などソフトシステム対策および事前対策の限界を踏まえた災害発生後に迅速、的確な活動を運営する対応計画が必要である。 発生頻度の低い震災対策は、課題が明らかとなっても実践的な取り組みが行われにくい現実がある。震災リスクの重大性を認識し、対策への取り組みを動機付けし、モチベーションを高めるリスクマネジメント教育・学習、訓練の果たすべき役割は大きい。 震災実態の理解と災害対応能力の向上を目的としたニュータウン地域において、開発事業者、進出企業、行政によるコミュニティ防災学習の事例について述べた。 防災訓練について企画・運営、アドバイスを行った企業の実施事例を基礎に実践性を高めるための課題について検討した。 地震による直接的な被害を軽減する構造物の耐震性能を向上する補強など技術、手法の概要を述べた。RC造の教育施設の耐震診断・補強事例と重要文化財史蹟建造物の耐震補強事例について概要を述べた。また、住まいの安全は、震災の状況に大きく影響する。住まいの大部分を占めている木造住宅の一般的な補強策の整理を試み、課題について述べた。 災害が発生した場合には、対応組織・体制を的確に運営し、また個人は適正な行動をとることが求められる。そのための活動指針としてマニュアルが果たす役割は大きい。リスクのアセスメント、被害想定、状況想定シナリオの構築によって抽出された課題と対応体制の実態を踏まえた震災対応マニュアルの策定の進め方について述べた。 震災対応計画には、地域震災対策では地理的環境ばかりでなく社会の風土、文化、住民意識など地域の特性、組織体の震災対策の場合には地域特性に加えて事業・業務特性が反映されなければならない。また、震災の規模や地震発生時の環境条件などで様相が異なるため柔軟、的確な対応のためには多次元で検討しておく必要がある。組織の業務特性や地域の災害対応活動事例を踏まえた震災対応の策定の進め方について述べた。 震災リスクマネジメントでは、中核として推進するチームが必要である。リーダーとしてのリスクマネージャーには状況判断、方針・意思決定と組織を指揮・統率する高い能力が求められる。的確な災害対応を行った組織には、災害経験や実践的訓練、事例や技術・手法を学習・習得したリーダーの存在があった。震災リスクマネジメントを支援する目的で開発した、震災事例を基礎に事業特性を反映させた震災状況シナリオを用い、状況判断、意思決定を疑似体験するシナリオシミュレーター試作システムの概要を示した。 最後に第Ⅵ章として本論についてまとめを試み、リスクマネジメント体制の構築と活動推進の中核となる人材育成が急務であることを指摘した。
内容記述: 環論第1号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201o001
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/525
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