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タイトル: イタリアンライグラスにおける導入エンドファイトの動態に関する研究
著者: 笠井, 恵里
発行日: 2008/03/21
抄録: イタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam.)は,寒地型イネ科牧草のひとつで,わが国の主として西南暖地において,最も重要な短年性牧草である。各種害虫によるイタリアンライグラスの被害は実用的に大きな問題となっているが,有用な育種素材が得られないために,交雑育種による耐虫性の改良についての研究は進んでいないのが現状である。そのため,耐虫性の改良に交配育種以外の方法が必要であり,これを克服するためにネオティフォディウム・エンドファイトの利用が注目されている。 ネオティフォディウム・エンドファイトに感染した植物は,生物的ストレス(特に害虫)や環境的ストレス(乾燥など)に耐性を示し,競合力が高いことが報告されている。一方,ネオティフォディウム・エンドファイト感染植物の中には家畜毒性物質を含有するものがあり,牧草として利用するためには有害なアルカロイドを産生しないネオティフォディウム・エンドファイトを見出す必要がある。Neotyphodium uncinatumが感染しているメドウフェスク(Festuca pratensis Huds.)は,家畜毒性物質を含有せず,耐虫活性物質のロリンアルカロイド類のみを含有しており,その含有量も多いことが報告されている。しかし,ネオティフォディウム・エンドファイトとイネ科植物との間には宿主特異性があり,異種(属)植物への導入の可能性や接種後の安定性については未解決のまま残されている。 本研究では,ネオティフォディウム・エンドファイトを利用して日本で最も重要な牧草であるイタリアンライグラスに耐虫性を付与することを目的として,メドウフェスクから分離されたN. uncinatumのイタリアンライグラスへの導入の可能性とエンドファイト導入イタリアンライグラスにおける耐虫活性物質であるロリンアルカロイド類の動態を詳細に検討した。 第1章 メドウフェスクからのエンドファイトの分離およびイタリアンライグラスへの導入 メドウフェスクから分離されたエンドファイトをN. uncinatumと同定した。次に,N. uncinatumの1系統「Eto8」をイタリアンライグラス育成系統JNIR-1への導入の可能性,安定性,次代種子への移行を検討した。その結果,エンドファイト「Eto8」は,イタリアンライグラス「JNIR-1」への導入が可能であり,その生体内で定着し,次代種子,その幼苗にも移行することが明らかとなった。また,既報のLatch and Christensen(1985)による導入方法は,多くの接種植物が枯死するため,組織培養用の培地を用い,育苗方法等 を改善することで生存率,感染率が向上することが明らかとなった。 第2章 イタリアンライグラスの各品種・系統へのエンドファイト各菌株の導入 イタリアンライグラスの品種・系統およびN. uncinatumの菌株の組み合わせによるエンドファイトの次代種子への移行程度の違いを検討した。その結果,供試品種・系統の全てでエンドファイト導入による感染が認められたが,感染率および次代種子のエンドファイト感染率は、品種・系統間で差異があることが明らかとなった。 第3章 エンドファイト導入イタリアンライグラスの次代種子におけるアルカロイド類の分析 10菌株のN. uncinatumを導入したイタリアンライグラス育成系統JNIR-1,品種ワセユタカの種子における耐虫性物質のN-ホルミルロリン(NFL)とN-アセチルロリン(NAL)の濃度を測定した。その結果,イタリアンライグラスにおいてもNFLとNALは検出され,その濃度は,導入したN. uncinatumの菌株によって異なり,イタリアンライグラスの品種・系統によっても異なることが明らかとなった。一方,家畜毒性物質であるエルゴバリンとロリトレムBを測定した結果,全ての組み合わせで検出されなかった。 第4章 エンドファイト導入イタリアンライグラスにおけるロリンアルカロイド類の動態 N. uncinatumの1系統「Eto8」を導入したイタリアンライグラス育成系統JNIR-1とメドウフェスクにおけるNFLとNALの動態を検討した。その結果,NFLとNALの濃度は,冬期に低く,開花期に増加した。また,開花期の植物体のNFLとNALの濃度は,穂で最も高いことが明らかとなった。 第5章 エンドファイト導入イタリアンライグラス育成系統の耐虫性 N. uncinatumの1系統「Eto8」を導入したイタリアンライグラス育成系統JNIR-1におけるSchizaphis jaroslavi(アブラムシの1種),ムギクビレアブラムシ,ムギヒゲナガアブラムシ,シバツトガ,ムギダニを用いた選好性による耐虫性の効果を検討した。その結果,エンドファイト「Eto8」を導入した当代植物については,S. jaroslaviに対して摂食忌避効果があることが明らかとなった。導入した次代植物については,S. jaroslavi,ムギクビレアブラムシ,シバツトガに対して摂食忌避効果があることが明らかとなった。 以上のことから,メドウフェスクから分離したN. uncinatumをもともと自然界では非宿主であるイタリアンライグラスに導入させることができ,導入個体の次代種子および植物体でエンドファイトの感染が認められることが明らかとなった。さらに,導入個体の次代種子および植物体で耐虫活性物質のロリンアルカロイド類が検出され,各種の害虫に対する耐虫性が認められることが明らかとなった。これらの知見は,ネオティフォディウム・エンドファイトの利用性に新たな可能性を切り開いたと思われ,家畜毒性を示さないエンドファイト導入耐虫性イタリアンライグラスの作出に寄与するところが大きい。現在,予 め交雑育種によって耐倒伏性が改良されたイタリアンライグラスへ,本研究で分離されたエンドファイト「Eto8」を感染させることにより,耐倒伏性と耐虫性を併せ持つ品種の育成が進行中である。
内容記述: 環論第4号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201o009
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/521
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