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タイトル: 新資源植物開発における植物組織培養法の適用―ユリとヨシを例として―
著者: 池田, 紀子
発行日: 2010/07/30
抄録: 21 世紀には食糧危機や化石燃料の枯渇などの問題が起こる可能性が危惧されている。これらの問題を回避するためのひとつの手段として、様々な利用価値を持つ植物資源の効果的な利用が挙げられる。今後、未開発の植物だけではなく、栽培植物のなかでも現在は利用されていない遺伝資源の再評価や利用価値の強化が必要である。 本研究では、開発価値が大きいと思われる資源植物のなかから、炭素源として食用等の用途が可能であると考えられるユリ属植物とバイオマスとしての利用だけではなく、水圏の富栄養化防止等の環境保全に有用とされるヨシに注目した。これらの植物では遺伝的改良のために植物組織培養法の導入が必須であるため、ユリについては種間交雑により有用形質を導入した食用ユリの普及を目的とした胚珠培養法、ヨシについては遺伝的改良のためのカルス誘導法と植物体再生について基礎的研究を行った。 ユリ属植物の球根は、タンパク質がバレイショやカンショの 2 倍以上含まれ、炭水化物 も豊富であるため、貴重な食用やデンプン原料の資源として、今後利用拡大を試みる価値の大きい作物である。ユリ属植物は、これまで観賞用としては種間交雑による品種改良が盛んに行われてきたが、食用としては、コオニユリと思われる種が利用されているが、既存の遺伝資源からの系統分離による品種がほとんどであり、種間交雑による品種改良はほとんど行われていない。 ユリを食用として普及するためには、種間交雑により、現在用いられている品種に耐病性等の新規遺伝子を導入することが不可欠である。しかしながら、ユリ属植物の遠縁種間交雑では、交雑不和合性により受精前と後に障害が生じるため、それらを克服する必要がある。受精前障害を克服するためには、花柱切断受粉、サイトカイニン処理、花柱への温湯処理などの方法が試みられ、種子の獲得に成功した例も報告されている。一方、受精後障害を克服するためには、胚珠培養や胚培養を行う必要があるが、雑種胚は、受精後、非常に早い段階で胚と胚乳の発育アンバランスが生じ、胚が崩壊するため、接合子段階で救出することが望ましい。接合子段階で摘出した胚珠の培養システムを確立することができれば、非常に早い段階で胚の崩壊が起こる組合せの雑種を作出することが可能となる。そこで、本研究では、受精後障害に焦点をあて、和合の組合せの中でも開花時期がほぼ同時期であるため交雑しやすく、繁殖が旺盛で耐病性が強いアジアティックハイブリッド‘コ ネチカットキング’בエンチャントメント’をモデルとして用い、受粉 3、5、10 日後の胚珠の培養を行い、胚の生長に必要な培地条件の検討を行った。受精直後の胚珠は子房から摘出し培養することが非常に困難であり、胎座組織は受精をした未熟な胚珠に刺激を与える役割を持つと考えられているので、胎座付きの状態で培養を行った。また、in vivo における胚珠の発達を観察するために、受粉 7、9、11、13、15、17 および 20 日後に子房を採取し、胚珠を傷つけないように摘出し FAA で固定した。一方、in vitro 培養における胚珠の発達を観察するために、受粉5 日後に採取した子房から摘出した胎座付き胚珠を、6%ショ糖、0.2%ジェランガムを含んだ 1/2B5 培地で培養し、置床 7、9、11、13 および 15日後に培養物を取り出して FAA で固定した。これらの材料の胚発達を組織学的観察により比較した。in vitro 培養における胚と胚乳の発達は、in vivo における発達よりも遅く、前胚の形態もin vivo の発達とは異なり基部細胞(胚柄組織)と先端細胞に分化していないことが明らかになった。 受粉 3、5 日後に摘出した胚珠の発達は、ショ糖 9%を含む B5 培地の濃度を 1/2 に希釈した培地が最も適していた。一方、受粉 10 日後に摘出した胚珠の発達は培地やショ糖濃度 にあまり影響されず、接合子段階の未熟な胚珠は培地成分に対する感受性が高いことが明らかになった。受精胚の発達はin vivo とin vitro において、発達様式や分化の仕方が異な っていたものの、受精後まもない未熟な胚珠は、最初に 9%のショ糖を含む 1/2B5 培地に培養し、その後、胚珠から発達した胚を摘出し 3~6%のショ糖を含む 1/2B5 に培養することが有効であることが明らかになった。 本研究において受粉 3 日後という未熟な胚珠の培養に成功したことは、ユリ属植物内でかなり遠縁の種間でも交雑実生が獲得可能なことを示している。したがって、従来から胚珠や胚培養技術を用いた育種が試みられていない食用ユリについて種間交雑育種を試みる場合においては、本方法を適用すれば耐病性の付与だけではなく、多様な形質の導入が可能となり、資源植物としてのユリの重要性がより広まるものと考えられる。 ヨシは亜寒帯から熱帯まで世界各国に広く分布するイネ科の多年草であり、古くから建材や家具として用いられてきた。近年では、石油代替エネルギーとして植物バイオマス変換技術が開発され、ヨシのような既存作物と競合しないバイオマスが大きなイネ科の永年性植物が注目されている。また、ヨシは水質改善機能を有するためにファイトレメディエ ーションに利用可能な有力な植物としても注目されている。 ヨシは主に栄養繁殖により生育地を拡大するが、種子繁殖も行うことができる。しかしながら、ヨシは高次倍数性のため種子繁殖能力が著しく低く、交雑による有用形質の育成は困難である。ヨシを育種に利用するためには、ソマクローナル変異や組換え DNA 技術を用いて有用系統の育成を行う必要があるが、そのためには栄養体からの効率のよいカルス誘導法を確立する必要がある。しかし、ヨシの細胞・組織培養について、これまでの成功例の多くは未熟胚や種子を用いて培養細胞系を得たものであり、得られた再分化植物は既存の遺伝子型が組換えられたものである。既存のすぐれた形質を利用するためには、葉および根等の遺伝的に均一な細胞からなる組織・器官からの培養細胞と再分化の系を確立する必要がある。 そこで、本研究では、生理、形態的特性が明らかになっているいくつかの系統について稈の部分から得られた小さなシュートを用いて、カルス誘導の条件を検討し、さらに、カルス誘導が良好であった系統に関して植物体再生と順化の条件を検討した。最後に、得られた再分化当代の変異について考察を加えた。 材料として‘TWL’、‘T’という北海道十勝地方の当縁川流域採取した系統、‘湖北 1’、 ‘湖北 5’という滋賀県湖北町尾上地区の湖岸から採取した系統、‘W6’、‘W8’という滋賀県守山市の湖岸から採取した系統を用いた。 まず、稈の節間分裂組織から腋芽や不定芽を発生させ、その後、それらのin vitro 培養により得られたシュートからカルスを誘導した。シュート形成培地を用いて稈を培養したと ころ、供試した全 6 系統において、‘TWL1’、‘W6’および‘W8’はシュートを形成しやすいことが明らかになった。一方、カルス誘導培地を用いて、シュートからカルスを誘導 したところ、供試した 4 系統のうち、‘湖北 5’が最もカルスを誘導・増殖しやすいことが認められた。これらのことから、ヨシにおいて、稈の節や節間からのシュートの形成とカルスの増殖について系統間で差異が認められ、遺伝子型によるカルス誘導の難易に関する変異が明らかになった。 ヨ シ のシュ ー トから カ ルスを 誘 導する た めに、 合 成オー キ シンで あ る 2,4-dichlorophenoxyacetic acid(2,4-D)と 3,5,6-trichloropicolinic acid(PIC)の効果を比較したところ、2,4-の方がカルスの誘導に適していることが明らかになった。また、カルスが最も増殖した‘湖北 5’を用いて再分化に及ぼすカルス培養培地と再分化培地の影響を調べたところ、2,4-D を添加した培地でそのまま継代したカルスの方が、2,4-D から PIC を添加した培地に継代したカルスよりも再分化率が高くなることが明らかになった。結果的 に、ヨシのシュートからのカルス誘導-再分化系には 2,4-D を添加した培地でカルスを誘導・維持し、そのカルスを再分化培地であるホルモンフリーの MS 培地に移植することが効率的であることが示唆された。また、シュート外植片から得られたカルスを再分化培地に移植した時に、突然変異育種において突然変異誘発効果を示す指標となっているアルビノが認められ、ソマクローナル変異が起こっていることが明らかになった。本実験の結果は、培養に用いたヨシの遺伝的改良が可能なことを示している。 以上述べてきたように、従来の交雑育種法では改良が困難な未開発資源植物について、植物組織培養法を適用することにより、新しい利用法が開発できることが明らかになった。
内容記述: 環課第14号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201k034
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/515
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